内部告発とは?リスクや告発者を守る「公益通報者保護制度」を解説

内部告発をすることは、とても勇気のいることです。

しかし、内部告発をしたことに対し、降格や退職強要などの報復が行われることがあるのも事実です。
そこで、公益通報者保護制度では、内部告発の内、一定の「公益通報」について、通報者を解雇しても無効であることが定められています。また、一定の公益通報の通報者に不利益な取扱いをすることを禁止しています。

内部告発や公益通報者保護制度について、弁護士が解説します。

内部告発とは?

内部告発とは、他の従業員や経営陣、企業が行なっている法令違反などの不正を、組織内部の人間が上司や外部の監督庁、報道機関などに通報することをいいます。

なお、内部告発は法律用語ではなく、定義は研究者によって異なります。

内部告発されやすい対象と具体例

内部告発で多いのは、以下のような違法行為や不正です。

  • リコール隠し
  • 食品偽装
  • 品質データ改ざん
  • 資格や免許の不正取得
  • 残業代未払いなどの労働問題

内部告発のリスク

内部告発を行なうと、不正を主導する上司や経営者、組織により、批判されたり降格されたりするなどの不利益が生じることがあります。

例えば、以下のような不利益が告発者側に生じることがあります。

(1)報復人事

内部告発への仕返しとして、報復人事が行われるケースがあります。

報復人事は、一般的に人事権を持つ担当者や上司などが、対象者の行為で不利益が生じたと感じた場合に、「報復目的で、配置転換などの異動や降格などを命じること」をいいます。懲罰人事とも呼ばれ、パワーハラスメントの一種にあたることもあります。

場合によっては、建前としては昇進という形で、現在の業務とは全く関係のない部署に異動させられることもあります。

(2)解雇

内部告発への仕返しとして、解雇という形で告発者を会社から排除しようとするケースもあります。

しかし、会社は自由に労働者を解雇できません。不当解雇は違法であるため、正当な解雇理由が必要です。
そのため、当該従業員に内部告発以外の問題がない場合、会社側は解雇にできないため、報復人事を通して自主退職へと追い込むパワハラなどが行なわれることもあります。

また、違法になる程度の退職強要がおこなわれるケースもあります。

(3)人間関係の悪化

内部告発した事実の発覚によって、同じ部署や経営幹部などから「あの従業員は情報を売るから気をつけろ」といった噂を流され、社内での人間関係が悪くなる可能性もあります。

内部告発者と公益通報者保護制度

企業や社会の公益のために通報を行う内部告発者が、不利益な取扱いを受けないよう、通報者を保護する公益通報者保護制度の実効性を高める取組みが行なわれています。

この制度で保護されるのは内部告発の内、「公益通報」というものです。内部告発と公益通報には、いくつかの違いがあります。

これから行う内部告発が、公益通報保護制度の対象になるのか、ポイントをしっかりと確認した上で手続を進めとよいでしょう。

参考:組織の不正を未然に防止!通報者も企業も守る「公益通報者保護制度」|政府広報オンライン
参考:公益通報者の保護|厚生労働省 北海道労働局
参考:公益通報ハンドブック|消費者庁

(1)どのような内部告発が公益通報になるの?

公益通報となるのは、次のいずれの要件も満たす場合です。

通報者:労働者

通報対象となる事実

  • 労務提供先(またはその役員、従業員、代理人その他の者)において、
  • 特定の法律に違反する犯罪行為などが生じ、または、まさに生じようとしていること

通報先:事業者内部、行政機関、その他(報道機関など)

通報の目的:不正な目的がないこと

それぞれの要件について解説します。

(1-1)通報者

公益通報者保護制度によって保護される通報者は、「労働者」である必要があります。
「労働者」は民間企業の正社員だけでなく、公務員、派遣労働者、アルバイト、パートも含まれます。

(1-2)通報対象となる事実

通報対象となる事実は、

  • 労務提供先(またはその役員、従業員、代理人その他の者)において、
  • 特定の法律に違反する犯罪行為などが生じ、または、まさに生じようとしていること

です。

まず、「労務提供先」とは、労働者が労務を提供する事業者のことです。たとえば、勤務先で働いている場合は、勤務先の事業者が労務提供先となります。

また、派遣労働者として派遣先で働いている場合は、派遣先の事業者が労務提供先となります。

さらに、雇用元の事業者と取引先の事業者の請負契約等に基づいて当該取引先で働いている場合は、取引先の事業者が労務提供先となります。

次に、公益通報となるためには、通報の対象が以下の事実である必要があります。

  • 「特定の法律」に違反する犯罪行為または最終的に刑罰につながる行為が生じ、またはまさに生じようとしていること

公益通報者保護制度の対象でない法律に違反していることを通報しても、公益通報者保護制度で保護されません。

2019年7月1日時点で、以下を中心とした計470もの法律が公益通報者保護制度における通報の対象になっています。

  • 刑法
  • 個人情報保護法
  • 廃棄物処理法
  • JAS法
  • 食品衛生法
  • 金融商品取引法 など

例えば、以下のようなものが、公益通報者保護制度における通報対象となる可能性があります。

  • 会社の物品やお金を横領している
  • 安全基準を超えた有害物質が含まれているのに、それを隠して販売している
  • リコール相当の不良車が出ているのに、虚偽の届け出を行なった
  • 裏山に産業廃棄物の処分を無許可で行なっている
  • 業務改善命令が出ているのに、以前と変わらないやり方で運用している

(1-3)通報先

公益通報者保護制度では、通報先として以下3つを定めています。

  • 事業者内部
  • 行政機関
  • その他

通報先によって、公益通報者保護制度で保護されるための要件(反故要件)が異なります。

【事業者内部(労務提供先等)】
公益通報者保護制度では、事業者が内部に公益通報に関する相談窓口や担当者を置くことを求めており、労務提供先の事業者内の公益通報の窓口や担当者、また、当該事業者が契約する法律事務所などを通報先とすることができます。

また、管理職や上司も通報先にすることができます。

保護要件

事業者内部への通報の場合、公益通報者保護制度で保護されるためには、「通報対象となる事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料すること」という要件を満たすことが必要です。

【行政機関】
通報された事実について、命令や勧告ができる行政機関が通報先となります。

例えば、労働に関する公益通報であれば、以下のようなところが通報先になる可能性があります。

  • 厚生労働省本省
  • 労働基準監督署
  • 公共職業安定所
  • 労働基準監督署
  • 地方厚生局 など

なお、通報しようとした行政機関が不適切だった場合でも、その機関側で適切な通報先を紹介するルールになっています。

保護要件

行政機関への通報の場合、公益通報者保護制度で保護されるためには、「通報対象となる事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること」という要件を満たす必要あります。

単なる憶測や伝聞等による行政機関への通報の場合は、公益通報者保護制度で保護されません。

通報内容が真実であることを裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述など、相当の根拠がある場合は、公益通報保護制度で保護される対象となります。

【その他】
一般的には報道機関や消費者団体、労働組合など、当該機関等への通報が被害の発生や拡大を予防するために必要であると認められるものが、通報先となります。

なお、ライバル企業などの場合は、「労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者」にあたるため、公益通報者保護制度上の通報先にはなりません。

保護要件

その他の機関等への通報の場合、公益通報者保護制度で保護されるためには、行政機関への通報の場合と同じく、「通報対象となる事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること」という要件を満たす必要あります。

また、これに加えて以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  1. 「事業者内部または行政機関に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受ける」と信ずるに足りる相当の理由がある場合
  2. 「事業者内部に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅・偽造・変造されるおそれがある」と信じるに足りる相当の理由がある場合
  3. 労務提供先から事業者内部または行政機関に公益通報をしないよう、正当な理由もなく要求された場合
  4. 書面等により事業者内部に公益通報をした日から20日を経過しても、当該通報の対象となる事実について、当該事業者内部から調査を行う旨の通知がない場合 または当該事業者内部が正当な理由なしに調査を行わない場合
  5. 「個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険がある」と信じるに足りる相当の理由がある場合

(1-4)通報の目的

通報の目的が「不正な目的」の場合には、公益通報にはなりません。

「不正な目的」とは、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的などのことをいいます。

(2)公益通報をした内部告発者はどのように保護されるの?

公益通報をしたことを理由とする解雇は無効となります。また、公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱みも禁止されています。

具体的には、以下のような取扱いが禁止されています。

  • 減給
  • 訓告
  • 降格
  • 自宅待機命令
  • 退職の強要
  • 給与上の差別
  • もっぱら雑務に従事させる
  • 退職金の没収や減額 など

公益通報者が派遣労働者の場合においても、次のように保護されています。

  • 公益通報を理由とした、派遣先企業の派遣契約の解除は無効
  • 派遣先企業が、派遣元企業に派遣労働者の交代を求めることは禁止

【まとめ】内部告発は公益通報者保護制度で保護の対象となることがある

内部告発とは、組織内部の人間が社内の不正を上司や外部の監督庁、報道機関などに通報することです。

内部告発を理由とした解雇や報復人事から告発者を保護するために、公益通報者保護制度があります。

これから内部告発を行なう予定があったり、内部告発による不利益な取扱いに悩まされている場合は、弁護士や、消費者庁が設けている「公益通報者保護制度相談ダイヤル」などにご相談ください。

参考:公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)|消費者庁

この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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